家の近くに行きつけの銭湯がある。
ドライヤーを10円玉2枚で動かす、古めかしいタイプの銭湯だ。
3連休の最終日、僕はいつも通りお風呂にゆったりつかった。
気分よく更衣室のドアを開けると、赤ら顔のおじさんと目が合う。
(画像はイメージ)
直感的に危ないニオイがした。
確実に関わらない方がいいと、第六感が告げている。
運が悪いことに、更衣室には僕とおじさんの2人きりだ。
早く去ろうと、距離をとってドライヤーで髪を乾かし始める。
すると突然、おじさんが怒鳴りはじめた。
「おいクソガキ!おいクソガキ!!」と連呼している。
無視して髪を乾かし続ける僕。
反応がないことにイラだったのか、僕の方にフラフラと近づいてきた。
背後から鏡越しに、全裸で睨みつけてくるおじさん。
2人の距離は30cmもなかったと思う。
頭の中では、ホラー映画のシャイニングを思い出していた。
怖すぎるだろ、なんだこのシチュエーション。
「絶対に相手にしちゃダメだ…!」と思い、ポーカーフェイスを保ち続ける僕。
するとついに、おじさんは指をチョキにして脇をつついてきた✌️
さすがにこれには耐えきれず、ついに口を開いてしまった。
「大丈夫ですか?酔っ払われてますか?」
自分でもビックリするほど、穏やかなトーンで話せた。
意外な反応だったのか、不敵な笑みを浮かべている。
「チョットだけね…」とニヤつくおじさん。
続けて、「お笑い芸人?お笑い芸人??」と尋ねてきた。
唐突なクローズドクエスチョンに驚きつつも、「お笑い芸人ではないですね…!誰かに似てましたか?」と尋ね返す。
すると、「え?マジ??キチィィイイ!恥ずかしいわぁあああ!!」と叫びながらおじさんは去っていった。
「いやオレの方がキチィんだが?w」と思いつつ、事なきを得て安堵した。
その後も店員さんに迷惑をかけながら帰路についたようだ。
おじさんはどうしてあんな絡み方をしてきたんだろう。
銭湯からの帰り道、グルグルと考えていた。
試しにおじさんの言っていた印象的なキーワードを思い出してググってみる。
「クソガキ お笑い」と調べると、ジャルジャルのコント動画が出てきた。
「まさかな…」と思いながら動画を開いてみる。
すると、子供の格好をした福徳さんを、「おいクソガキ!」と後藤さんがイジっている。
テンションまでおじさんとソックリだ。
……もしかしてこれか?
僕のことがジャルジャルに見えたのか?
このネタを一緒にやりたかったのか?
確かに泥酔していたら、僕は福徳さんに見えなくもないかもしれない。
たまたま知ってるお笑い芸人を見つけて、はしゃいでしまったのかもしれない。
3連休の最終日、1人で飲んで酔い潰れて寂しかったのかもしれない。
そう思うと、急にホラー映画の悪役だったおじさんが、かわいらしく思えてきてしまった。
同時に、かわいそうにも思えてきてしまった。
行き場のない生きづらさや寂しさを抱えて、誰でもいいから繋がりたかったんじゃないだろうか。
僕もダル絡みこそしないものの、どうしようもなく誰かと話したくなることはあるもんな。
そう思うと、おじさんを許せる気がした。
こんな風に勝手にバックグラウンドを想像して共感してしまうのは、僕の強いクセだ。
想像を膨らませて共感しすぎるから、気疲れしてしまう。
シンプルにタチの悪い絡み方をする、酔っ払い常習犯だった可能性もあるんだから、考えすぎもよくない。
けど可能な限り、表出した行動だけをみて批判をしたくない。
行動に至った背景にまで想いを馳せられる人でありたい。
わかりあえなくても、歩み寄れる人でありたい。
そんなことを思った出来事だった。
おじさんに幸あれ。
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